読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

北村浩子の「読んで、話して、書いて」

フリーアナウンサー、ライター、日本語教師の北村浩子のブログです。

よりぬき「books A to Z」 『黒い天使』(コーネル・ウールリッチ 黒原敏行 ハヤカワ・ミステリ文庫)

f:id:kitamurabooks:20170424214156j:plain

今回は、コーネル・ウールリッチ

『黒い天使』をご紹介します。

翻訳は黒原敏行さん。

ハヤカワ・ミステリ文庫からでています。

youtu.be

 コーネル・ウールリッチという作家は、

この本名を含めて、

幾つかの名前を使って小説を発表した人です。

その中でも有名なのは、『幻の女』という作品。

ウィリアム・アイリッシュという名前で発表されています。

『幻の女』は、ある場面で、

「ええっ!?」と

声が出てしまったことを覚えています。

読んでいたときの興奮が忘れられない小説ですが、

今日ご紹介する『黒い天使』は、

ウールリッチ名義で発表された中でも人気の一作。

これはまた、違った魅力がありました。

 

語り手は、22歳のアルバータという女性。

彼女は愛する夫と2人で暮らしていた。

夫はアルバータに、

天使の顔、エンジェルズ・フェイス、と

よく囁いてくれた。

しかしだんだん彼の帰りは遅くなり、

見え透いた言い訳をするようになった。

ミア、と名が彫られたコンパクトが

彼のコートのポケットから出てきたことがある。

ミアというその女性が、舞台女優であることを、

アルバータは知っていました。

 

不安がさらに濃くなったのは、

スーツが2着、クローゼットからなくなり、

旅行鞄が重いのに気付いたときだった。

会社に電話をすると、

出張の予定はないという。

夫は駆け落ちしようとしているのだ……

と思ったアルバータ

意を決して、ミアのところへ出向きます。

 

ニューヨークの高級住宅街の、高級なアパートメント。

ベルを鳴らしたけれど、誰も出ない。

ドアにはかぎが掛かっていなかった。

中へ入る。

お金をかけた家具が眼に入ってくる。

電話のベルが鳴った。

思わず受話器を取ると、

聞こえてきたのは馴染みのある声でした。

「──もしもし、ミア?」

疑いは確信となってしまった。

アルバータはふらふらと玄関へ向かいます。

何かに躓いた。

足だ。

足? 

 

ミアと思われる女性は、

枕に顔を押しつけられて、死亡していた。

あまりの恐怖に駆け出した瞬間、

アルバータの頭に、夫のことが浮かびました。

夫と彼女との関係を疑わせるものを、

この部屋から持ち去っておかなきゃ……!

アルバータは、電話帳を掴んでバッグに入れ、

ドアの外に人がいないか、耳を澄ませた。

そのとき、ドアの蝶つがいのあたりに、

紙マッチの、ボール紙の部分を半分にちぎったものが、

挟まれているのに気付きました。

M、とイニシャルが書いてある。

アルバータはそれもバッグに入れた。

細心の注意を払って家まで戻り、

ひといきついたところで、

アルバータはハッとしました。

夫がミアの部屋に行ったら、

大変なことになる。

慌てて会社に電話をかけると、

夫はもう退社していた。どうしよう!

不安は的中、夫は逮捕された。

「私、あの部屋に行ったんです。

女性は死んでいました。

でもそのとき、夫は会社にいたんです!」

警察に、アルバータは懸命に訴えましたが、

聞いてもらえなかった。

ミアの死亡推定時刻は、午後1時から2時くらい。

夫は、2時15分頃に、

アパートを出るところを見られていたのだった。

夫の言い分は、

アパートへは行ったが、

彼女は留守で部屋には入れなかった、というものでした。

彼は、あらゆる面からみて、不利だった。

起訴され、裁判にかけられ、死刑を宣告された。

面会で夫は、アルバータに、

「信じてもらえないだろうが、

あの日、アパートに行ったのは、

彼女と別れるためだったんだ。本当だよ」と言った。

信じてるわ、と彼女は返した。

夫を取り戻すことを、

アルバータは心に決めていました。

 

あのマッチ。M。

単純なやり方だけれど、

イニシャルがMの人物を、電話帳からあたってみよう。

「M」は4人いた。

アルバータは彼らに連絡を取り、

彼らに近づきました。

ひとりは浮浪者、

ひとりは医者、

ひとりは青年実業家、

そしてもうひとりは、ダンスクラブの支配人。

その中の一人に、

アルバータは思いがけず、心惹かれてしまうのです……

 

ミステリーではありますが、

推理の手がかりがちりばめられているというより、

アルバータの冒険を描いた物語、という感じです。

怖い思いをしながらも、

健気に、懸命に頭を働かせて、

犯人かもしれない男たちから

ミアとの関係をさりげなく聞きだし、

夫の無実を証明しようとする。

警察に、無駄だからやめなさいと言われても、

「正しい答えが見つかるまでは間違いが続くけれど、

最後に答えが見つかったら、

それまでの間違いは全部帳消しになる」

と主張して、果敢に挑んでいくんですね。

エンジェルズ・フェイス、という、

夫が彼女に言っていた言葉が何度か出てきますが、

これが、ラストシーンで、

とても切なく、読者の胸に響きます。

 

今日は、コーネル・ウールリッチ

『黒い天使』をご紹介しました。