北村浩子の「読んで、話して、書いて」

フリーアナウンサー、ライター、日本語教師の北村浩子のブログです。

よりぬきbooks A to Z 『守備の極意』(チャド・ハーバック著 土屋政雄訳 早川書房)

今回ご紹介するのは『守備の極意』。

著者はアメリカの作家、チャド・ハーバック、

翻訳は土屋政雄さんです。

早川書房から上下巻で出ています。

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著者のハーバックは、この『守備の極意』がデビュー作、

9年かけて書いたのだそうです。

2011年に刊行され、

ニューヨーク・タイムズの年間ベストにも入った作品ですが、

上巻を読んでいる途中から、

下巻があるのが嬉しくなってしまう、

そんな小説でした。

 

ウィスコンシン州ウェスティッシュ大学、

野球部のキャッチャー・マイク・シュウォーツが、

ある選手を見出すところから始まります。

対戦したサウスダコタ州の小さなチームの、

小さな選手。

高校生だというけれど、

14,5歳くらいにしかみえない。

でも、ショートを守る彼、ヘンリーの守備はすばらしかった。

第一歩がすごい。

瞬時にボールに追いつき、送球する、

その動作にひとつの無駄もない。

巻き戻して、もう一度見たいと思うくらいに、

彼の動きは優美で完璧だった。

マイクのチーム、

ウェティッシュ大学の野球部・ハープーナズは、

ここ数年、芳しくない弱小チーム。

マイクはヘンリーをスカウトします。

 

ヘンリーはびっくりした。

見栄えのしない体格の自分が、

まさか大学の野球部に声をかけられるなんて……。

夜行バスに乗ったヘンリーは、

これまで何度読んだか分からない愛読書

『守備の極意』をひらいた。

その本の著者は、セントルイス・カージナルス

18シーズンショートを守った、

最高の遊撃手、アパリシオ・ロドリゲス。

アパリシオはヘンリーの英雄だった。

いつか、彼のようになりたい……

それはヘンリーの夢でした。

大学の寮で、彼のルームメイトになったのは、

黒人のオーエンだった。

「ゲイのアフリカ人」だというオーエンの本棚にも、

『守備の極意』があった。

美意識の高いオーエンの部屋は、

彼の審美眼にかなったものだけで埋め尽くされていて、

ヘンリーはこれまでに味わったことのない空気感の中で

生活することになりました。

オーエンはカッコよかった。

ヘンリーに洒落たジーンズを買ってくれた。

野球部のテスト練習が始まり、選ばれたメンバー4人の中に、

ヘンリーもオーエンも入っていました。

 

オーエンは、試合に出られなくても気にしない。

ベンチにいるとき、

読書用のライトを帽子にクリップで止めて本を読む。

そんなことが許されているのは彼だけでしたが、

一方でヘンリーは、弱点だった打撃の強化に励み、

早朝から、自分をスカウトしてくれたマイクとともに

トレーニングに励んだ。

1年目。

ヘンリーはエリアのリーグの代表選手に選ばれ、

31試合に出てエラーゼロ。

2年目が終わる頃には、

ヘンリーは大学創設以来初めての

プロ候補になっていました。

打率は5割以上。

しかも、なんと、憧れのアパリシオの持つ、

全米大学競技協会、NCAA連続無失策記録に

あと1と迫っていました。

 

──その日、

ヘンリーがアパリシオの記録に並ぶところを見ようと、

球場にはプロのスカウトが2人、やって来ていた。

ヘンリーは2塁打を2本打っていた。打撃好調。

そして9回裏の守備。1アウト。ショートゴロ。

ヘンリーは自然に球をグラブに入れ、

その球は素早く、狙い通りの進路を辿った。

 

進路を邪魔したのは、湖からの一瞬の突風でした。

一塁手が飛びつく。

グラブの先端をボールは飛んでゆき、

ハープーナズのダッグアウトに入った。

どさっと倒れる音。

マイクの顔がゆがむ。

ヘンリーは驚きのあまり表情が作れない。

ボールは、本を読んでいたオーエンの顔を直撃した。

マイク、コーチ、大学の学長、

審判たちがオーエンに駆け寄る。

ヘンリーは震えが止まりませんでした。

この1球は、ヘンリーだけでなく、

そして彼の周りの人たちの人生をも、

変える1球になってしまったのです──。

 

野球の話、だけではない、

実はこの作品は、

大学のキャンパスを舞台にした群像劇で、

ヘンリー、マイク、オーエンに、

大学の学長アフェンライト、彼の娘ペラが絡んでいきます。

意外な組み合わせの恋愛。

ヘンリーの苦悩。

予想もしなかった濃厚なストーリーが

このあと展開されるんですが、

私が感じたキーワードは「湖」です。

さっき、湖からの突風で……と言いましたが、

物語の要所要所に「湖」が出てきます。

最後の「湖」の場面は、たまりませんでしたね。

長さが嬉しくなってしまう長篇です。

 

今日はチャド・ハーバック著『守備の極意』をご紹介しました。

早川書房から出ています。