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北村浩子の「読んで、話して、書いて」

フリーアナウンサー、ライター、日本語教師の北村浩子のブログです。

『ヒロ☆コラム』プレゼントします

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「キタムラさん、何か書いてみない?」と、

FMヨコハマのサイト制作を担当していた

Yさんが声をかけてくれたのは、

2000年の冬でした。

「なんかよく本読んでるから、

書くことも好きだと思って」と。

 

「ヒロコのコラムだからヒロコラム」

深く考えずにタイトルをつけ、

連載をはじめました。

毎週水曜日掲載。

2005年の8月まで、271回書きました。

 

その8月に、日本文化出版の編集者Ⅿさんが、

「本にしませんか?」と声をかけてくださり、

12月にはほんとうに本になりました。

 

「素顔のようなもの」というサブタイトル、

今もとても気に入っています。

 

棚の奥に何冊か、まだきれいな状態で残っていました。

読んでみたいと思って下さる方がいらっしゃいましたら、

差し上げます。3冊あります。

 

kitamurabooksatoz@gmail.com まで

メールをお寄せください。

(個人情報は送付するとき以外は使いません)

 

30代の自分は幸せだったなあ、と今、

思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よりぬきbooks A to Z 『守備の極意』(チャド・ハーバック著 土屋政雄訳 早川書房)

今回ご紹介するのは『守備の極意』。

著者はアメリカの作家、チャド・ハーバック、

翻訳は土屋政雄さんです。

早川書房から上下巻で出ています。

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著者のハーバックは、この『守備の極意』がデビュー作、

9年かけて書いたのだそうです。

2011年に刊行され、

ニューヨーク・タイムズの年間ベストにも入った作品ですが、

上巻を読んでいる途中から、

下巻があるのが嬉しくなってしまう、

そんな小説でした。

 

ウィスコンシン州ウェスティッシュ大学、

野球部のキャッチャー・マイク・シュウォーツが、

ある選手を見出すところから始まります。

対戦したサウスダコタ州の小さなチームの、

小さな選手。

高校生だというけれど、

14,5歳くらいにしかみえない。

でも、ショートを守る彼、ヘンリーの守備はすばらしかった。

第一歩がすごい。

瞬時にボールに追いつき、送球する、

その動作にひとつの無駄もない。

巻き戻して、もう一度見たいと思うくらいに、

彼の動きは優美で完璧だった。

マイクのチーム、

ウェティッシュ大学の野球部・ハープーナズは、

ここ数年、芳しくない弱小チーム。

マイクはヘンリーをスカウトします。

 

ヘンリーはびっくりした。

見栄えのしない体格の自分が、

まさか大学の野球部に声をかけられるなんて……。

夜行バスに乗ったヘンリーは、

これまで何度読んだか分からない愛読書

『守備の極意』をひらいた。

その本の著者は、セントルイス・カージナルス

18シーズンショートを守った、

最高の遊撃手、アパリシオ・ロドリゲス。

アパリシオはヘンリーの英雄だった。

いつか、彼のようになりたい……

それはヘンリーの夢でした。

大学の寮で、彼のルームメイトになったのは、

黒人のオーエンだった。

「ゲイのアフリカ人」だというオーエンの本棚にも、

『守備の極意』があった。

美意識の高いオーエンの部屋は、

彼の審美眼にかなったものだけで埋め尽くされていて、

ヘンリーはこれまでに味わったことのない空気感の中で

生活することになりました。

オーエンはカッコよかった。

ヘンリーに洒落たジーンズを買ってくれた。

野球部のテスト練習が始まり、選ばれたメンバー4人の中に、

ヘンリーもオーエンも入っていました。

 

オーエンは、試合に出られなくても気にしない。

ベンチにいるとき、

読書用のライトを帽子にクリップで止めて本を読む。

そんなことが許されているのは彼だけでしたが、

一方でヘンリーは、弱点だった打撃の強化に励み、

早朝から、自分をスカウトしてくれたマイクとともに

トレーニングに励んだ。

1年目。

ヘンリーはエリアのリーグの代表選手に選ばれ、

31試合に出てエラーゼロ。

2年目が終わる頃には、

ヘンリーは大学創設以来初めての

プロ候補になっていました。

打率は5割以上。

しかも、なんと、憧れのアパリシオの持つ、

全米大学競技協会、NCAA連続無失策記録に

あと1と迫っていました。

 

──その日、

ヘンリーがアパリシオの記録に並ぶところを見ようと、

球場にはプロのスカウトが2人、やって来ていた。

ヘンリーは2塁打を2本打っていた。打撃好調。

そして9回裏の守備。1アウト。ショートゴロ。

ヘンリーは自然に球をグラブに入れ、

その球は素早く、狙い通りの進路を辿った。

 

進路を邪魔したのは、湖からの一瞬の突風でした。

一塁手が飛びつく。

グラブの先端をボールは飛んでゆき、

ハープーナズのダッグアウトに入った。

どさっと倒れる音。

マイクの顔がゆがむ。

ヘンリーは驚きのあまり表情が作れない。

ボールは、本を読んでいたオーエンの顔を直撃した。

マイク、コーチ、大学の学長、

審判たちがオーエンに駆け寄る。

ヘンリーは震えが止まりませんでした。

この1球は、ヘンリーだけでなく、

そして彼の周りの人たちの人生をも、

変える1球になってしまったのです──。

 

野球の話、だけではない、

実はこの作品は、

大学のキャンパスを舞台にした群像劇で、

ヘンリー、マイク、オーエンに、

大学の学長アフェンライト、彼の娘ペラが絡んでいきます。

意外な組み合わせの恋愛。

ヘンリーの苦悩。

予想もしなかった濃厚なストーリーが

このあと展開されるんですが、

私が感じたキーワードは「湖」です。

さっき、湖からの突風で……と言いましたが、

物語の要所要所に「湖」が出てきます。

最後の「湖」の場面は、たまりませんでしたね。

長さが嬉しくなってしまう長篇です。

 

今日はチャド・ハーバック著『守備の極意』をご紹介しました。

早川書房から出ています。

よりぬきbooks A to Z 『虹色と幸運』(柴崎友香 ちくま文庫)

これまで「books A to Z」では、

2千作以上の本をご紹介してきました。

このブログでは、思い入れのある作品を

「よりぬきbooks A to Z」としてアップします。

 

オンエアのときの原稿を書き替え、

音声も再録音しました。

 

まずは、春に読んで欲しい、

柴崎友香さんの『虹色と幸運』(ちくま文庫)を

ご紹介します。

 

☆ ☆ ☆

 

3月から始まる1年の物語。

メインの人物は3人です。

31歳の本田かおり、

春日井夏美、

水島珠子(たまこ)。

かおりと夏美が高校のときの同級生で、

かおりと珠子が大学の同級生。

かおりつながりで、夏美と珠子も仲良くなった。

こういうつながりって、ありますよね。

物語は、ひと月ひと月を章として語られます。

始まりの3月。

春分の日が近い土曜日、3人は数年ぶりに会う。

夏美から、ちいさな雑貨屋を始めたとメールが来て、

かおりと珠子が開店祝いに足を運んだのでした。

 

夏美には、ちいさい子どもが3人いる。

かおりは、大学の学務課で8年働いている。

珠子は、フリーランスイラストレーター。

多肉植物の寄せ植えを

お祝いに持っていくことにしたのは、

繊細な植物だと、夏美は枯らしてしまうだろうと、

かおりも珠子も、同じことを思ったからでした。

 

久しぶりに夏美の家族にも会って、

みんなで積もる話をして、

その日、

かおりが自分のアパートに着いたのは9時過ぎ。

ボーイフレンドの、

4歳下の準之助が廊下でごろっと寝ていた。

一方、珠子が、

最寄の駅に止めておいた自転車に乗って、

1人暮らしの自宅に着いたのは10時過ぎだった。

仕事は明日にしよう……と珠子は思った。

その時間、

夏美の家族は全員、深い眠りの中にいました。

この小説は、誰かの1人称で綴られているのではなく、

カメラが切り替わるように、

視点人物が次々に変わる書き方がされています。

 

4月の、ある火曜日。

新学期が始まったばかりのキャンパスで、

かおりは激務の毎日を過ごしていた。

やっととれた昼休み、

図書館の前の広場でお弁当を食べながら、

準之助と最初に会ったのもここだったな、

と思い出していた。

役者志望の準之助はもともと、

この大学の学生だった。

公私混同みたいに思われたくなくて、

仲のよい同僚にも、そのことは言っていない。

突然、準之助の父が神戸から上京してきたのは、

5月の連休の2日目で、

知り合いの個展を、

珠子と一緒に代官山に見に行った帰りに、

いきなり一緒に夕飯を食べることになり、

心の準備もないまま、

かおりは待ち合わせ場所に行った。

準之助の父は、

なんかうまいもん食いに行きましょう、と

挨拶もなくかおりに言った。

息子がどうのこうの、ということは、

気持ちがいいほど言われなかった。

父と子は、

好きなバンドの話で、

酒を酌み交わして盛り上がっていて、

そんな2人を見ているのは楽しかったけれど、

自分の家族との距離も、かおりは感じた。

その日、夏美は

夫の家族と親戚と自分の家族分、10人の食事を作り、

義理の妹の誕生日を祝っていました。

 

珠子が再び夏美の店を訪れたのは、

梅雨の晴れ間が覗いた、6月のある日。

ふらりと寄ったのに、

珠子は突然夏美から店番を頼まれた。

お客さんは何人か来たけれど、

誰も何も買わなかった。

早く帰って来ないかな……と思い始めた頃、

大きいリュックを背負った若い男性が、

不思議そうな顔をしながら入ってきた。

その男性は、夏美の夫の後輩らしく、

無線LANが繋がらなくなったから見て欲しいと

夏美に頼まれて来たのだと言った。

リュックから、一眼レフのカメラが覗いている。

工場や、廃墟や団地の写真を撮るのだと彼は言い、

何枚か見せてくれた。

「こういうの、うちの近所にもありますよ」

と珠子が場所を言うと、

彼は、急に生き生きした表情を見せ始めた。

あー、男の子って感じだなと珠子が思ったとき、

「和哉くんごめん!」と夏美が帰ってきた。

珠子と和哉は、

携帯電話を持ち出して連絡先を交換した。

それを見た夏美は、

恋の始まりかしら、と、ニヤッとします……。

 

三人称で、視点人物が細かく変わる、

と最初に言いましたが、

この書き方って実はすごく難しいんです。

柴崎さんは難しいことを、

すごくかろやかにやっている。

その難しさの分、

描かれている時間と場面が、

立体的に読者の頭の中に構築されて、

普通の女性たちの日常が

ちっともつまらなくない、どころか、

ずーっと彼女たちの日々を読んでいたいなあと

思わせるんですね。

 

3人が冒頭で再会したからと言って、

3人のつながりばかり書いてない。

それぞれに仲のよい人は他にもいる、

ということも書かれていて、

うんうん、人間関係の現実ってそうだよねと思います。

1年後、彼女たちにはどんな変化があったのか。

最初の場面を振り返りたくなる結末です。

 

音声はこちらから(音が出ますのでご注意ください)

 

 

本の仕事、話す仕事、します

はじめましての方、はじめまして!

ラジオを聴いて下さっていた方、ご訪問ありがとうございます!

 

北村浩子です。

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1993年から2016年まで

FMヨコハマで契約アナウンサーとしてニュースを担当し、

2003年から2017年まで

「books A to Z」という本紹介コーナーのパーソナリティを務めました。

現在は「本の雑誌」の「新刊めったくたガイド」で、

国内小説のレビューを担当しています。

 

これまで、いろいろな方がご縁をつないでくださり、

書評や講演、朗読など、

さまざまな場で本や言葉に関する仕事をしてきました。

 

(新潮社「考える人」に2016年に掲載されたコラム

「明日への武器」はこちらから読めます。)

 

「会社や学校やサークルで、読書についての話をして欲しい」

「日本語を教えて欲しい」

「テーマに沿って文章を書いて欲しい」

「おすすめの本を朗読して欲しい」

 

そんなご要望をいただきましたら、

全力で応えさせていただきます。

 

何かご相談がありましたら、

プロフィール欄からご連絡ください。

お返事いたします。

 

 どうぞよろしくお願いいたします。

 

 北村浩子